昭和の日常と日本舞踊

日本舞踊にご興味をお持ちの皆さまへ

「日本舞踊」と聞くと、現代ではまず、高尚なもの、敷居の高いものと思われてしまうかもしれません。

ですが、私が幼かった昭和の時代には、ご近所のお師匠さんのところで、多くの子供たちや若いお姉さんたちが踊りを習っていました。お嫁入り前の茶道や華道、子供たちが習字やそろばんを習うといった教養や習い事の一つとして一般人に広く浸透していたのです。

和服が着てみたい。しなやかな心と体を手に入れたい。
日本人として日本舞踊とは何かを知っておきたい。
きっかけは何でも構いません。

日本舞踊に少しでも興味をお持ちでしたら、まずは一歩を踏み出してみてください。
素晴らしい世界が待っていますよ。

日本舞踊を知る

日本舞踊とは

日本舞踊は歌舞伎舞踊の技法を基本とした舞踊です。
男性だけの歌舞伎から派生し、女性による舞踊が加わったことが大きな特色です。

お稽古事としても普及し、日本の伝統文化を支えてきました。
踊りと舞としぐさ、これらの三つの要素を持つのが日本舞踊です。

踊りは拍子にのるリズム的な要素が強く、舞はやわらかく、表現を内にこめることが基本となっています。

お稽古を知る

日本舞踊のお稽古について

日本舞踊のお稽古に通う際、一番初めに教わるのは「礼」の仕方、形です。
「礼」に始まり「礼」に終わるのが基本だからです。
丁寧に両手をついてあいさつすることによって心が鎮まり、素直な心が生まれます。

その素直な心をもって、初心者はひたすら師匠の物まねをして振り付けを覚えていきます。
ダンス等ですと、誰でも同じ「基本のステップ」から始めると思いますが、日本舞踊はいきなり一曲の中に「歩く」「すべる」「足踏みする」「回転する」「手足を同時に動かす」という様々な動作が入ってくることになりますので、五感をフル活用して、師匠の真似をし続けていくことになります。

そして、子供は子供用の、大人は大人用の初心者用の演目を習い、次第に身につくのは「動いて、止まって、決めのポーズをとる」という一連の動作です。
お稽古を重ねることによって、まずは「決めのポーズ」が美しくできるようになってきます。
そのほとんどの決めポーズは、腰を落とした「中腰」の形なので、師匠が初心者にかける言葉で特に多いのが「お膝をしっかり折って」という指示になります。安定した腰の形を作っていくのが、上達の一番の早道だからです。

年数を重ねていくと「決めのポーズ」は誰でも美しくできるようになりますが、次の課題は動きと動きのつなぎになります。上級者は、踊っている間、どの場面を切り取っても美しいですが、初心者は動きがぎこちなく滑らかさに欠けます。

その動きのつなぎで重要なのは「間(ま)」になります。ダンスのテンポとは違い、「間(ま)」は簡単に一言では教えられません。正解がないからです。

初心者で曲とテンポが合わないというのは論外ですが、上級者になると、わざと一瞬、間をずらして余韻を持たせるというということがあったりします。その点は大変奥が深いです。

もう一つ、お稽古で厳しく指導されるのは「構え」です。最初の構えを見ただけで、上手か下手かは一目瞭然だからです。

西洋のダンスではどんなに上手な方でも動き出すまではうまさを表現できないと思いますが、日本舞踊は「美しく隙のない構え」ができるかどうかで、力量がわかってしまうという怖いものでもあります。

今までお稽古を続けてきた中でターニングポイントになったのは「上半身の余分な力」が抜けたときでした。

これは師匠にどれだけ教わってもできることではなく、自分で身につけるしかありませんでした。

体に力を入れるのは簡単なのですが、余分な力を抜くというのは本当に難しいものです。
私は不器用なので、最終的にそこに至るまで約30年を要しました。

余分な力を抜くことによって、滑らかな動きも、自然な構えも、心の自由さえ手に入れました。
そしてその時確かに、いにしえからの伝統の力を取り入れることができた気がしました。

日本舞踊のお稽古を始めて半世紀、最初と最後に「礼」を繰り返してきましたが、真に敬虔な気持ちで「礼」をするようになったのは指導者になってからです。

まだまだ拙いながらも弟子たちに自分の踊りを伝えたいと願い、どうかそれがうまくいきますようにという、祈りにも似た気持ちにいつも打たれながら「礼」を続けています。

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